第5回 11月5日(火)
「イタリア語とルーマニア語における語順の果たす役割」

   講師:鈴木 信五 東京音楽大学 教授

 突然日本語の話で恐縮ですが、次の2つの文がどちらも正しいことは、日本語話者だったらすぐにわかります。

 (1)一郎が花びんを割った。
 (2)一郎は花びんを割った。

 ところが、「一郎は何をしたのか」という問いに対しては、(1)は答えとして失格です。

 さて、イタリア語やルーマニア語は、よく語順が自由な言語だと言われます。事実、ルカという少年が花びんを割ったという事実を表すのに、主語Sの位置の違いを考えただけでも、それぞれ3通りの語順が許されます(以下、動詞Vは太字で示します)。

イタリア語:(3)Luca ha rotto il vaso.  SVO
(4)Ha rotto Luca, il vaso.  VSO
(5)Ha rotto il vaso Luca.  VOS
ルーマニア語:(6)Luca a spart vaza.  SVO
(7)A spart Luca vaza.  VSO
(8)A spart vaza, Luca.  VOS

 しかし、このうち、「ルカは何をしたのか」の問いにふつうのイントネーションで答えられるのは、両言語とも語順がSVOの文(3)、(6)だけです。このことからわかるのは、両言語とも語順が話の流れのなかで決まるので、通常言われていることとは裏腹に、むやみに語順を入れ替えてはいけない、ということです。

 講義では、こうした語順決定のメカニズムを探りながら、イタリア語とルーマニア語における語順の果たす役割について考えてみたいと思います。
 

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