2009年7月 月次レポート(足立享祐 イギリス)
月次レポート(2009年7月分)
ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)派遣者
足立享祐(2009年3月22日~9月21日)
7月となり、こちらの大学は一足早く夏期休業に入ることとなった。キャンパスを歩く学生の数は以前と比べて疎らになったものの、BLには多くの学生、研究者が集まっている。欧宝体育平台_欧宝体育在线-app下载に日本学術振興会外国人招聘研究者として来られていた、シカゴ大学のジェームズ?ナイ博士にも偶然お会いし、BLと共同で進めている、英領インド期に作成された地図資料のデジタル化プロジェクトについての情報を得た。日本国内でもGIS(地理情報システム)を活用した南アジア史研究が始まっており、今後この研究分野において多くの点が解明されることになると思われる。
帰国まで残された時間が次第に少なくなり、いよいよ焦りが募っているが、引き続き、公文書?揺籃本調査と論文の執筆を進めている。先月の報告では、18世紀までのヨーロッパにおけるマラーティー語についての資料を確認したが、いよいよ19世紀の資料に取りかかっている。
19世紀以降のインドの印刷史において最も重要な地位を占めるのは、セランポールのバプテスト宣教団である。彼らにより行われたインド諸語研究と、活字鋳造を含めた近代的な印刷技術の導入は、この時期の出版文化に多大な影響を与えることになった。
宣教団を主導したキャレイ(William Carey)はフォート?ウィリアム?カレッジ(Fort William College:)においてもサンスクリット語、ベンガル語、そしてマラーティー語の教鞭を執ったことが知られている。彼はナーグプル出身のパンディトと共に、1805年に『マラーティー文法?日用会話集A Grammar of the Mahratta Language to which are added Dialogues on Familiar subjects』{SOAS: EB80.71/6159}、そして1810年に『マラーティー語辞書 A Dictionary of the Mahratta Language』{SOAS: EB81.164/46513}を出版している。またセランポールではインド諸語による聖書の翻訳事業が行われるが、マラーティー語もその一つとして1804年から編纂が進められている。BL所蔵分としては、1807年刊行の『マタイによる福音書』{BL 279.55.E.5}以降の数点を確認している。
キャレイのマラーティー語研究は、19世紀初頭におけるマラーティー語観を主導することとなったが、それらはボンベイ管区において次第に問題となり始めた。セランポール?バプテスト宣教団版のマラーティー語聖書についても、アメリカン?ボード(アメリカ外国伝道委員会)や聖書協会ボンベイ支部等、ボンベイ管区で活動したキリスト教宣教団体はこれを改訂する必要があると考えたのである。その初期の試みである1826年刊行『新約聖書』もSOASとBLに架蔵されている。{BL: 14137.aa.19, SOAS: CWML D.7/13}。これらの問題については、博士論文で詳しく採り上げたい考えている。
2009年8月1日