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2010年10月 月次レポート(小久保真理江 イタリア)

月次レポート(10月)
                                              小久保 真理江

 今月からITP-EUROPAの支援によってイタリアのボローニャ大学で研究を進めています。ボローニャには 去年の秋から既に他の奨学金で一年滞在していたため、この秋からは二年目の滞在となります。 欧宝体育平台_欧宝体育在线-app下载とボローニャ大学(イタリア科)との共同学位授与制度のもとで博士論文を提出するという目標に向かって、論文執筆に取り組んでいます。ITP-EUROPAの支援によって、ここボローニャで 引き続き研究に 専念できることをとてもありがたく思っています。
 今月は第一回目の報告書ですので、まず研究内容を短く紹介させていただきます。私の研究分野はイタリア文学?比較文学で、具体的には20世紀イタリアの作家チェーザレ?パヴェーゼの作品におけるアメリカ映画の影響について研究しています。パヴェーゼ(1908-1950)は詩人?小説家ですが、アメリカ文学の翻訳者としてもよく知られています。大学卒業後1930年代からパヴェーゼはアメリカ文学作品の翻訳や批評に携わりました。アメリカ文学はパヴェーゼ自身の詩や小説にも影響を与えたと言われています。またパヴェーゼは1920年代から映画館に頻繁に通っており、短い映画評や映画の原案も残しています。これらの映画評からはパヴェーゼがアメリカ映画を特に好んで見ていたことが分かります。アメリカ文学とパヴェーゼとの関係については多くの研究があるのに対して、アメリカ映画との関係についてはまだいくつかの短い論考しか存在せず、さらに研究されるべき重要なテーマだと考えています。私は博士論文でパヴェーゼとアメリカ映画との関係を論じることによってパヴェーゼの作品やアメリカへの関心に新たな光を当てることを目指しています。
 去年の滞在経験を通して大学院のシステムを理解し、生活の基盤も整えることができたので、今月は去年の学期初めのように混乱のなかで様々な手続きに追われることなく、順調に研究生活を再開できました。去年一年の間に大学の講義に出席することや多くのイタリア語文献を読むことによって吸収した知識をもとに今年は論文の執筆作業を進めていく予定です。今月は博士論文のなかの二つの章について、詳細な構成を定め、執筆を開始しました。また、12月に参加を予定しているシンポジウムでの発表内容についても構想を練り、指導教官のロレンツィーニ先生とシンポジウムの企画を進めているコランジェロ先生に相談に行きました。
 さらに今月は、アルキジンナージオ図書館 とボローニャ?シネマテークの図書館に赴き、研究に必要な資料について司書の方々に相談しました。 司書の方々は両館ともとても親切で、資料について助言を下さった他、施設やオンラインシステムに関する私の細かい質問にも丁寧に答えて下さいました。また研究内容について説明したところ、とても興味深いテーマだと言っていただき励まされました。
 パヴェーゼと映画の関係について論文を書くためには、1920年代から1930年代にかけてイタリア(特にトリノ)で上映されていた映画について知る必要があるため、アルキジンナージオ図書館では当時のトリノの新聞の映画に関する箇所を閲覧し、シネマテークでは当時のトリノで発行されていた映画雑誌を閲覧しました。今回は限られた時間のなかでいくつかの雑誌に目を通したのみなので、また改めてじっくりと閲覧?分析する必要がありますが、大きく二つのことを確認することができました。まずひとつは、ファシスト政権下においても映画雑誌ではアメリカ映画が中心的に扱われていたこと。もうひとつは、当時の映画雑誌において文学と映画が似た形で扱われていたことです 。
 10月14日?15日にはボローニャ大学のイタリア文学科によって開催された移民文学についてのシンポジウムに聴衆として参加しました。イタリア国内外の大学から招かれた様々な研究者がここ20年の移民によるイタリア語文学について発表を行ったほか、作家自身による朗読や、編集者を招いた座談会などもあり、興味深いイベントでした。現在の私の研究テーマに直接的には関わりませんが、もともと異文化?異言語接触や移民問題などのテーマ全般に関心があるのでとても良い刺激になりました。ここ二十年の間イタリアではアジア系やアフリカ系も含めた様々な地域からの移民が増え、移民の子供(第二?第三世代)でイタリア語を母語とする人々も増え続けています。彼らがどのようにイタリア社会?イタリア語のなかで生きていくのか、そしてどのようなアイデンティティーを形成していくのかという点に私は強い関心を持っています。今回のシンポジウムで紹介された文学作品を研究の合間に読み、移民やその子供たちがどのようなイタリア語文学を生み出していくのか、これからも注目していきたいと思います。

 

 

 

 

 

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