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英語教育学を学び直す?博士前期課程修了?田村友美さん?竹林浩平さんインタビュー

外大生インタビュー

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職務経験のある大学院生へのインタビューを行う、シリーズ「もう一度、大学へ?大学院で学び直す?」。第3弾にご協力いただいたのは、2025年3月に博士前期課程を修了された田村 友美(たむら?ともみ)さんと、竹林 浩平(たけばやし?こうへい)さん。

田村さんは高校の教諭として働きながら博士前期課程に入学し、修了した現在も高校で英語科教諭を続けています。竹林さんは航空パイロットとして働いたのち、本学の言語文化学部に3年次で編入。その後は修士課程に進学し、修了した現在は神田外語大学で英語講師をしています。
英語教育に関わるお二人に、社会人入学のきっかけや本学での学びについてお話を伺いました。

取材担当
大学院総合国際学研究科博士前期課程2年 星野 花奈(広報マネジメント?オフィス 学生広報スタッフ?学生ライター)


——本日はよろしくお願いします。早速ですが、お二人のご経歴からお伺いしてもよろしいでしょうか?

(田村さん) 私は福岡県の出身で、高校から音楽科に進み、東京音楽大学のピアノ演奏家コースで学びました。そこで大学院にも行きまして、大学院2年生のときに東京都の音楽科教諭の教員採用試験を受けて、就職しました。東京都で音楽科教諭として働いている時に英語科教諭の免許も取り、育休をいただいた後、教員5年目から神奈川県の英語科教諭として働き始めました。

ピアノを演奏する田村さんの写真
ピアノを弾いていた頃

(竹林さん) 私は神奈川県の出身で、日本の中学校を卒業したのち、オーストラリアに留学し、現地の高校を卒業しました。その後はそのままオーストラリアの大学に進学し、機械工学を専攻しました。大学2年次終了後に日本に帰国し、航空大学校というパイロットになるための養成機関を受験し、宮崎、帯広、仙台でパイロットになるための訓練を受けました。2年間で卒業に必要なパイロットの資格を取得し、24歳の時に航空業界に就職しました。就職後にジェット機の訓練を受けて、25歳の時に副操縦士として働き始めました。ボーイング737の資格を取得し、約6年間は国内線で操縦経験を積みました。その後、約3年間は国際線でボーイング787に乗務しました。トータルで10年間ほど副操縦士として働いていたのですが、英語に対する愛があまりにも強すぎたので、パイロットを辞め、東京外大に3年次編入しました。そのまま修士課程に進み、35歳から39歳の4年間で学士号と修士号を取得しました。修士号を取得した現在は、神田外語大学で英語を教えています。

戦闘機と竹林さんの写真
F14戦闘機との記念写真

——ありがとうございます。次に、修士論文の研究テーマを教えていただけますか?

(田村さん)

  • (英語タイトル)Effects of CEFR-J-Based Task Experience and Self-Recording on Japanese EFL Learners’ Speaking Self-Assessment
  • (日本語タイトル)「CEFR-Jのタスクに取り組むこと、および録音することがEFL学習者のスピーキングにおける自己評価に与える影響」

神奈川県内3つの高校にご協力いただき、1年生計7クラスのデータを集め、分析しました。内容を簡単に説明すると、①まず最初に学習者にCEFR-Jのディスクリプタをもとにスピーキング力の自己評価をしてもらう。②次にCEFR-Jのタスク(PreA1レベルからA2.2まで)に実際に取り組んでもらい、それらのタスクを遂行することができたかについて振り返ってもらう。③その後、自身の発話の録音を聞き、タスクを遂行できているか客観的に聞いてもらう。④そして最後に、①で行った自己評価に再度取り組んでもらい、変化を見る、といった研究です。対照群もタスクに取り組みますが、録音を聞く活動は行わず、実験群と比較しました。

修士研究の流れの図
修士研究の流れ

(竹林さん)

  • (英語タイトル)Building a CEFR-Based Semantic Network of English Vocabulary: Implications for L2 Vocabulary Acquisition and Learning
  • (日本語タイトル)「CEFRに基づく英語語彙のセマンティックネットワークの構築」

本研究は、基礎語彙と低頻度語彙の意味的関係を体系的に分析し、英語学習者が既に習得していた基礎語彙を効果的に活用する方法を模索したものです。具体的には、CEFRに準拠した語彙データを基盤に、語と語の階層的?連想的関係を可視化したセマンティックネットワークを構築し、そこから得られた知見を学習支援に応用しました。さらに、このネットワークをデジタルツールとして実装し、語彙習得の深化や学習者の自律的な語彙拡充を促すための教育的示唆を提示しました。

アプリの画像
修士研究に関連して語彙学習用に作ったアプリ

——ありがとうございます。次に、博士前期課程に入学しようと思った「きっかけ」があれば教えていただけますか?

(田村さん) そもそも高校からずっと音楽科だったので、英語科教諭になったあと、英語をゆっくりと学びたいとは常に思っていました。ただ、英語科教諭になってから2人目の子どもが産まれたこともあり、少し生活がバタバタしていました。2校目の高校に移ったタイミングで、「いまがチャンスかな」と思い、大学院進学を考えました。東京外大でCEFR-J [1] の研究をしている投野 由紀夫先生と根岸 雅史先生の研究に興味があったので、お二人がいる場所で学びたいと思い、東京外大に進学しました。

(竹林さん) 最初は学部で終わらせて、また働くことを考えていました。ただ、自分は教員免許を持っていなかったので、「教育の世界で働くとしたら、修士号は取らないといけないな」という感じでした。加えて、専門性を増やしたいという思いもあったので、他のオプションはなかったですね。

[1] 欧州共通言語参照枠(CEFR)をベースに、日本の英語教育での利用を目的に構築された、新しい英語能力の到達度指標のこと。(参考:CEFR-J公式サイト、「CEFR-Jとは」より)

——実際に博士前期課程に入ってみて、いかがでしたか?

(田村さん) 楽しかったです。竹林さんの存在は大きかったですね。入学したとき、「きっと若い人が多いだろうな」という不安もありました。なので、最初の自己紹介の時に同年代の竹林さんがいて、心強かったですね。

(竹林さん) 学部に比べると、楽しさや気楽さが全然違いましたね。先生との距離も近くなりますし、同期の人との繋がりも濃いものになり、学部の何倍も楽しかったですね。

——反対に、大変だったことや辛かったことなどはありましたか?

(田村さん) 大変だったこととは少し違うのですが、英語教育学で修士号をとった4人のうち、私だけが根岸先生の研究室で、ほか3人は投野先生の研究室だったので、同期との生活リズムや研究テーマが少し違っていて、寂しいと感じるところはありましたね。

(竹林さん) 「興味のないものにも興味を持たなきゃいけない」ところに大変さはありました。私は「教育」や「(学んだことを)教室に持っていく」ということをずっと意識していましたが、大学院となると、自分の興味とはかけ離れた研究ももちろん多くて。それに対して自分の中で折り合いをつける大変さはありました。ただ、そうしたことも含めて、ワークロードとしては妥当なものだったとも思います。

(田村さん) あと、私は博士前期課程1年目は休職したのですが、2年目は職場に復帰したので、高校1年生の担任としてフルタイムで働きながら、大学院の授業に参加して修士論文を書いていました。その間は同期との関わりも減ったので、「自分で自分のお尻を叩くしかない」という大変さもありましたね。

——次に、本学での研究についてお話を伺いたいと思います。お二人とも英語教育に従事されていますが、博士前期課程に所属している時には、東京外大、筑波大学、上智大学の3大学院が連携して提供している「英語教育イニシアティヴ?プログラム [2] 」(TEFL-IP事業)に参加していたと伺いました。本事業に参加した「きっかけ」はありましたか?

(田村さん) 私の場合は、水本 篤 [3] 先生による夏学期の集中講義に参加したのが最初だったと思います。もともと根岸先生の授業で、水本先生の研究を用いたテスト分析などをしていて、その繋がりで興味を持って参加しました。

(竹林さん) 私の場合はそういった講義には参加していませんでしたが、上智大学に行って口述発表を行う機会がありました。自分の研究はコーパスをベースにしたものだったのですが、学会というと「コーパス学会」という感じで、基本的にはコーパスを専門とした人が多く集まります。一方で、TEFL-IP事業のシンポジウムは、「英語教育学」という視点を持ったさまざまな研究テーマの人が集まるので、自分が見逃していた観点に対する質問を受けたりして、研究の厚みを持たせるのに非常に重要な機会となりました。そこで他の大学の学生とも話すことができたので、そういった交流の場を提供してくれたという点でも、非常に有意義なものでした。

(田村さん) 私も修士1年の時にオンラインで口述発表をしたのですが、筑波大学や上智大学には自分の研究テーマと近い学生もいて、自分たちの研究を幅広く見合えたという点で、いい機会になりました。

[2] 英語教育学イニシアティヴ?プログラムについては、以下のURLから詳細をご確認いただけます。https://www.tufs.ac.jp/education/pg/exchange/tefl-ip/
[3] 関西大学外国語学部教授。専門は、英語教育学。

——発表の機会や交流の場というのは、すごく貴重なものですよね。そうしたTEFL-IP事業での学びが、その後の研究やお仕事につながったと感じることはありますか?

(竹林さん) 私がしていたのは語彙の研究でしたが、研究に対して貰ったコメントを元に自分の研究を改善していきました。そうした研究成果を、いま教育現場で使えているので、そういった意味では役に立っていますね。

(田村さん) 夏の集中講義でも色々な視点を学べましたし、プログラムを通して自分の興味を広げられました。そういった意味では、今につながっていますね。

竹林さんの写真
竹林さん
田村さんの写真
田村さん、現在の職場にて

——最後になりますが、本学の学生や広く社会に伝えたいことなどがあれば、メッセージをお願いします。

(竹林さん) パイロットとして働いていた時は、物理的にもすごいスピードで飛行機は動いていますし、時間があっという間に経つような生活を10年間送っていました。社会に出るということはおそらくそういうことで、すごく時間が早く感じると思います。そうした生活を経て東京外大に来た初日、時間が止まった感覚がありました。東京外大で受けた初めての授業が文学の授業で、その時に先生が「月曜日の10時から文学を勉強できるという幸せを噛みしめてほしい」と言っていたことを、今でも憶えています。社会人入学をすることの意義の一つには、そういった「深呼吸できる場所」が提供されているということだと思いますし、それを知っておいてもいいのかな、と思いますね。

あと、私はいま大学で働いていますが、今の学生に対して、「すごくいい時間が流れているから、無駄にしないでほしい」と思いますね。これは教員になって得た視点ですが、「せっかく時間も与えられていて、失敗もできるのに」と感じることもあります。

(田村さん) 私は長く教育現場で働いていますが、教育現場とアカデミアの乖離というのはずっと言われてきました。現場にいると、毎日を分刻みで過ごすことになり、論文を漁る時間をとるのは難しく、教材研究という視点が浅くなってしまうこともあります。私の場合、一回現場を経験してからアカデミアに来たので、そうした乖離をより強く感じて、現場とアカデミックな研究をどうつなげられるかということも深く考えられるようになりました。大学院で先生や同期とつながることで、大学院に行く前とは違って、いつでも相談できる人がいるし、参加する研究会の幅も広がりました。「現場に埋もれていく」ということにストップをかけて、もう一回アカデミックな視点を学ぶことができたというのは、人生において有意義だったなと思います。

(竹林さん) 加えて、多磨の静かな環境で学べたというのも良かったですね。さまざまな大学を訪れたことがありますが、東京外大のキャンパスは静かな雰囲気で、すごくいい環境だと思います。

(田村さん) あと、東京外大はすごくバランスがいいと思いますね。竹林さんようにコーパスを用いた研究も学べるし、より現場に即した英語教育学も学べました。改めて現場に戻って思うのが、東京外大で学んだ音声学や英語教育学がすごく活きてくるということです。大学院は、現場で教えている人や、教員を指導する立場の人が、そうした最新のアカデミックな研究を学ぶ場でもあるということを推していきたいですね。

(竹林さん) 私はコーパスにどっぷりハマっていましたが、そうやって深く追求することもできれば、よりジェネラルに学ぶこともできるという点ではバランスがいいと思いますね。あとは、大学院で得たテキスト処理のスキルは今の現場で確実に使えていますね。コンピュータを使って数分でテキスト処理をするということは、大学教員でも全員ができるわけではないので、そういったスキルを大学院で身につけられてすごく良かったですね。


【英語教育学イニシアティヴ?プログラム(TEFL-IP)の概要】

英語教育学イニシアティヴ?プログラム(TEFL-IP)は、「人文?社会科学系ネットワーク型大学院構築事業」として2023年度に文部科学省に採択されました。
本事業では、先端的な英語教育学プログラムをもつ欧宝体育平台_欧宝体育在线-app下载?筑波大学?上智大学が連携して、広く応用言語学を網羅し、実証研究に裏打ちされた学問としての英語教育学を専修プログラムとして提供します。
詳しくは、下記URLからご確認いただけます。
https://www.tufs.ac.jp/education/pg/exchange/tefl-ip/ 

【参考資料】 

?CEFR-J公式サイト、https://www.cefr-j.org/(最終アクセス日:2025年8月26日)

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