対談:留学と国際交流
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世界全体が揺れ動く状況が続いても、海外との交流を着実に推進してきた本学。学生自身による主体的な留学を重んじる姿勢が、国内外で起こる複雑な社会課題へ取り組む、前向きな人材の育成につながっています。国際交流等を担当する松隈潤副学長と、留学支援共同利用センターで学生の留学の相談?後方支援にあたる小松謙一郎留学支援コーディネーターが、本学の留学を語ります。
- 松隈潤副学長(国際担当)(以下「松隈」)
- 小松謙一郎留学支援コーディネーター(以下「小松」)
留学する意義とパンデミック
松隈 留学による経験は幅広いもので、言語の修得や専門分野の学びだけではありませんね。そこで経験したことを、学生が自身の人生における学びの中へ生かしていくことが、本学にとっては通例だったわけです。大学から働きかけをしなくても、学生が自ら進んで留学する風土が根付いていました。
小松 ところが近年は、欧宝体育平台_欧宝体育在线-app下载感染症のパンデミックによって厳しい状況を強いられることになりました。留学を志して本学に入学してきた学生も多い中、留学できない状況が続いた時期は、学生の留学を支援する立場としては非常に歯がゆい思いをしました。本学学生の派遣は、2021年度の夏から再開しましたが、海外からの留学生の受け入れは、日本政府の水際対策措置による外国人の入国制限のためになかなかかないませんでした。
松隈 受け入れは、大学だけではどうにもならない部分がありました。派遣のほうは、学生の留学に対する思いや留学の学修効果と感染リスクなどの危機管理の面を総合的に判断する必要があり、判断が難しいところでしたが、国内の大学に比べると比較的早い段階から派遣を再開しました。
小松 より具体的には、1学期間以上の長期の留学は2021年の夏から、短期留学(ショートビジット)も2022年の夏から再開することができました。再開にあたっては、どれくらいの数の応募があるかを懸念してもいたのですが、パンデミック前に近い水準の応募者数があり、学生たちの留学への意欲は今も強いようでホッと胸をなでおろしたところです。
松隈 コロナ禍を経て、むしろ留学意欲はさらに高まっている印象があります。
小松 2022年度の夏学期には、350人ほどの学生が短期留学に参加しましたが、例年参加者のほとんどを占めていた1?2年生だけでなく、しばらく動きを封じられていた3?4年生の留学が多いのも今年の特徴です。
松隈 学生たちは、大学の在学期間の中に、海外における学びを重要な機会であると考えて、組み込もうとしているわけですね。
小松 学生の国際交流の経験という点では、海外に留学するだけでなく、学内においても海外からの留学生と交流する場を提供することが大事ですが、海外からの留学生受け入れについては、2022年度に入ってから、水際対策措置の緩和もあり、かなり進展が見られました。
松隈 キャンパス内にある国際交流会館への入居も、ほぼ満室に近いくらいの稼働に戻ってきました。本学のキャンパス内で本学の学生と海外からの留学生が楽しそうにおしゃべりをしている光景を見ると、とても安心しますね。
国際情勢の影響
松隈 ようやく感染症と共存していく段階に入ってきたとも考えられるのですが、今度は、ロシアによるウクライナ侵攻が起きました。
小松 大変ショッキングな出来事でした。パンデミックの影響により留学を先延ばしにしていた学生の中には、当然、ロシアへの渡航者もいたわけです。念願かなってやっとロシアの地を踏んだのもつかの間、早々にロシアからの退避を余儀なくされた学生もいました。学生の気持ちを考えるといたたまれなくなりました。なお、大学としては、たとえば中央アジアなどのロシア語圏の大学への留学など、代わる道筋を示せるように努力しています。
松隈 世界的なインフレや円安による影響も大きいですね。
小松 まず、航空券や燃油サーチャージが高くなっていますし、現地での生活費も2~3割は上がっているようです。一方、学生へ支給される留学のための奨学金については、円安による為替レートの影響で目減りしてしまい、現地で暮らす留学生の感覚としては、半額ほどの給付しかもらえていないのが実感のようです。
松隈 日本学生支援機構(JASSO)などの奨学金も、円建てで支払われますからね。この辺りは、制度的な再検討も是非、要請したいところです。
小松 直接的な金銭面の支援は難しいにしても、どうすれば滞在費を安く抑えられるか、といった現地の生活面の情報などは留学を経験した人に聞くのが一番と考え、当センターでは、留学経験者に声をかけて、留学体験報告会や留学座談会といったイベントを実施しています。当センターでの情報提供以外にも同じ言語の先輩たちや現地の卒業生などのネットワークからもさまざまな支援を受けられますが、そうしたサポートは本学ならではの強みかもしれません。
松隈 パンデミックで留学に行けない時期があり、これから留学に行く学生が、留学経験者を探そうとしても辿り着けない、といった事態も起きていて、そういう点では留学経験の継承のサイクルが一時期に途切れてしまったのですが、また新たにそのサイクルをつなぎ直していってもらいたいですね。
オンライン活用とリアル留学
松隈 カリフォルニアを中心としたアメリカの複数の大学と、オンラインによる大学間の教育プログラム「多文化主義的感性とコンフリクト耐性を育てる太平洋を越えたCOIL型日米教育実践プログラム(TP-COIL)」をスタートさせた直後に、世界をパンデミックが襲いましたね。
小松 内外の大学が混乱する中、本学がいち早くオンライン授業を実施できたのも、そういった先駆的な取り組みがあったことも大きいと思います。
松隈 対面による授業を再開できるようになってからも、インターネットの活用はいっそう盛んになっているのが、本学の特徴でしょう。海外の講師による授業を、日本の教室にいる学生がリアルタイムで受講したり、場合によっては、それをまた別の海外にいる学生が受講することもできるわけです。
小松 では、オンライン化のメリットをきわめれば、実際に海外へ留学に行く代わりになるのか、と言えば、本学ではそう考えません。
松隈 留学というのは、学生が海外の環境へ一人で身をおくことですから、その土地の文化や社会についてはもちろん、生活や習慣、歴史や風土といった、言語につながるさまざまなことを体験するわけです。現地の匂い、人々の熱気、日常での現地の人との会話、そういったものまで含めた総合的な体験にこそ、留学する意義があるのだと思います。本学では「多文化共生」がキーワードの一つになっていますが、多文化共生社会をリードしていく人材を育てるという意味においては、自らが異文化に飛び込んでいくという経験は非常に重要だと思います。
小松 言語習得に限ればオンライン学習も有効ですが、その先の幅広い学びについては、やはりリアルな留学へ行ってこそだと思います。本学には、パッケージ化された留学プログラムのようなものはなく、どの国のどの大学へ何を学びにいくかを学生自身が考え、そして調べ、渡航や滞在の手続きも自ら行うことが基本となります。我々教員やスタッフはあくまでそれを支援するスタンスです。学生にとっては、準備段階からすでに留学は始まっているわけです。そういった手続きをひととおり遂行できただけでも、本人の自信につながっていきます。
松隈 オンラインによる学習は、利点をうまく活用していきたいですが、やはり留学の代替にはなり得ないものですね。
海外でのインターンシップ
松隈 海外の大学で授業を受けるだけでなく、キャリアパスとして海外でのインターンシップを望む学生も増えています。
小松 それぞれの職場で実際に働くとなれば、高い言語能力だけでなく、業務に対する知識や柔軟な処理能力も求められますから、国内におけるインターンシップとは、まったく厳しさが異なります。そのため、これまでは大学院生が中心でしたが、彼らが実績を残してくれたので、学部生への道も開けてきました。
松隈 外務省の在外公館派遣員の制度を利用して、世界各地の大使館や領事館で勤務する学生もいますし、国際機関での受け入れもあります。
小松 本学は、国際移住機関(IOM)や国連食糧農業機関(FAO)、経済協力開発機構(OECD)の3つの国際機関と協定を締結し、学生がインターンシップに参加しやすい環境を整えています。大学推薦は一般枠での応募に比べ、採用プロセスにおいてある程度は優先的に扱われるところがメリットですね。
松隈 ハイレベルな資質を求められますが、積極的に応募してチャンスをつかんでもらいたいですね。
小松 一方で、国際協力機構(JICA)、日本貿易振興機構(JETRO)といった独立行政法人や国際NGO、NPOだけでなく、海外で日本人が立ち上げたスタートアップ企業の受け入れ先を、学生が自分で見つけてくることもあります。海外でのインターンシップでは、教育機関での座学とは違って、主体的な行動が求められる場面が非常に多くなります。苦労することも多いようですが、その分成長の機会もあるのだと思います。ただ、中には待遇面や安全面などで十分な配慮がされていないようなものもあるようなので、注意が必要ですね。海外でのインターンについては、あまり安易に考えないほうがよいと思います。
松隈 もともと、休学して海外でさまざまな経験を積んでくる学生は多かったのですが、最近は活動内容がさらに多様化していますね。何だか大学生活に気持ちが入っていない様子だった学生が留学を終えて帰国すると、ずいぶん前向きな考え方に変わっていて、ああ向こうで鍛えられてきたな、と思うこともありますよ。
これからの国際化推進
松隈 留学生の受け入れが長く滞っていたこともあり、海外で学ぼうと考えている層における、留学先としての日本の評価が下がっていることは懸念されますね。
小松 学生の話を聞いていると、海外における日本語教育のプライオリティーが下がってきているのかな、と思うことがしばしばあります。たとえば、K-POPカルチャーが席巻しているような状況を、現地から良く耳にします。
松隈 ただ待っていれば来てくれる状況では、もうなくなっています。留学フェアやいろいろな場で、留学先としての本学の魅力を伝えていかなければいけない時代ですね。
小松 本学からの派遣に関しては、対外的には、定量的な面、たとえば留学者の数といった数値の拡大が分かりやすいアピールポイントになりますが、それよりも、内容を重視していきたいと考えています。留学した学生がどんな経験をして、どのように成長できたのか、ということをしっかりとフォローできるようにしていきたいです。また、200を超える海外の協定校との関係も同じく数を加えるよりも、質的な関係の向上を図っていければと考えています。
松隈 協定校と本学とのダブル?ディグリー(複数学位)が得られる仕組みを増やすなどして、交流の中身も多様化させて、留学制度をより充実させていきたいですね。
(「欧宝体育平台_欧宝体育在线-app下载 統合レポート2022」掲載)
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